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大阪高等裁判所 昭和30年(う)2173号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

控訴理由は記録に綴つてある原審検事寺西博名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

被告人三名に対する起訴状の公訴事実は公務執行妨害であつたのに、原判決は単に暴行と認定していることは検事所論のとおりである。

しかして刑法第九十五条の公務執行妨害罪の要件たる暴行脅迫は、公務執行の妨害となるべきものであることを要するものである。(大審院昭和九・四・二四集一三巻五二二頁、最高裁判所昭和二五・一〇・二〇第二小判決、集四巻一〇号二一一五頁参照)ところ、原判示事実に引用の証拠を対照するに、第一事実は被告人川本仁人は判示巡査吉崎敏二の知らぬ間にその後方より石一個(石の大きさについては資料がない)を投げつけたもので、同巡査が後を振り向いた時に、石がその耳のあたりをかすめて飛んで行つたが身体には当らなかつたというのであり、第二事実は被告人荒金滋が崖上より崖下道路上の警察職員の居る方向に石一個(証人洲之内滋の証言によれば石の大きさは二寸五分と一寸七八分位四方のものであつたという)を投げたところ判示巡査洲之内滋の鉄兜に当つて大きな音がしたというのであり、第三事実は被告人李春雨が判示装備車目がけて石一個(証二号握拳の半分位の大きさ)を投げたところ、判示巡査厚地哲夫の臀部に当つたというのである。

かくの如く只一回の瞬間的な暴行に過ぎない程度のものであるなら、その当時の状況が所論のとおり日共創立三十周年記念文化祭の後検挙者を生じ一般群集が喚声をあげ殺気立つているとき、更に集会散会後無許可示威行進が行われて警察官の部隊が実力行使により解散させたとき、警備又は検挙に当つていた警察官に対するものであるとするも、未だ以て公務執行の妨害となるべきものとは思われない。

しからばこれと同趣旨の原判決には何等法令の適用に誤があるということはできない。

よつて検事の本件控訴は理由がないから、刑事訴訟法第三百九十六条により主文のとおりの判決をしたのである。

(裁判長判事 岡利裕 判事 国政真男 石丸弘衛)

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